とんでもない部下

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「なんか変なんだよね。確かに入れておいたはずなのに」 正志にその話をすると、彼は動揺も見せずに言ったのだ。 「ボケたんじゃねえの? 寄る年波には勝てないな」 7歳年下の彼氏に年寄り扱いされて、怒りが湧くよりも悲しくなった。 冗談だとしても、笑えない冗談だ。 でも、お札に名前を書いているわけじゃないから、正志に盗まれたという証拠はどこにもない。 正志がアラサー女と付き合っているのは、金と食事と身体が目当てなのかもしれない。 *** 大口の取引先を相手にする1課とは違って、営業2課は取引先の数が多い。 1社当たりの儲けは少ないが、どこも大事なお得意様だ。 五友社は会社の規模が小さく受注量も少ないものの、長年取引を続けてきた相手だ。 そこの黒岩常務に飛田が気に入られた様子なので、彼の担当にすることになった。 「信用を築き上げるのには長い時間を要するけど、失うのは一瞬だってことを肝に銘じてね。 わからないことは適当に返事しないで、必ず私に確認すること。 何かあっても飛田くんには責任が取れないんだから。 飛田くんの仕事の責任は私が取ります。わかった?」 この言葉は、私も新入社員の時に上司に言われた言葉。 あの時の私と同じように飛田もビックリしたように目を丸くした。 自分が失敗したら上司に迷惑がかかる。 そう思ったら身が引き締まる思いがしたことを今でも覚えている。 「かっけー!」 なのに、飛田の口から出たのはそんな言葉だった。 「うっわあ。僕、係長に惚れ直しました。カッコ良過ぎ。もう一生、牛窪係長について行きます!」 いらんわ! *** その夜の夢は最悪だった。 飛田が黒岩常務に暴言を吐いて取引は停止。 私はクビになって、飛田の母親に仕事を世話してもらおうと土下座していた。 目が覚めて夢だとわかって、こんなにホッとしたことは未だかつてない。
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