とんでもない展開

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「もう大丈夫ですよ。腕、痛みますか?」 「え? あ、ああ、ちょっと。あの、ありがとう。助けてくれて」 心配そうな優しい目で見つめられて、私はしどろもどろで答えた。 「あいつと付き合ってたんですか?」 そう尋ねながら、飛田が私の背中に手を添えて歩き出す。 駅まで送ってくれるらしい。 「うん。財布のお金を盗られてたことに気付いて、別れたばかり。わかってる。見る目がないって言いたいんでしょ?」 咎めるような視線に俯いた。 「ホントですよ。あんな男のモノだったなんてショックです。あいつ、ニートですか?」 正志がよれよれの私服だったから、そう見えたのだろう。 「ううん、一応、会社員。飛田くんと同い年だよ」 それからの飛田は変だった。 「え? ってことは僕も圏内?」 「やっべ! もう行くしかないだろ」 「マジ? うわあ、緊張、ぱない」 ブツブツ呟く飛田は、私には聞こえていないと思っているらしいけど。 彼の心の声がダダ漏れで、私は笑いを堪えるのに必死だった。 飛田が何を考えているかなんて明らかで。 もしも、これが1か月前だったら(勘違いもはなはだしい。飛田なんて冗談じゃないわ)と思っただろう。 でも、今は嫌じゃない。 嫌じゃないどころか、彼の熱い視線を嬉しいとさえ感じていた。 「家まで送って行きます。あいつがいたら大変だし」 飛田の心配はもっともで、私はありがたく送ってもらうことにした。 正志の私物は彼の自宅に送り付けてやったけど、うちに来ないとも限らない。お金や食事目当てで。 「引越した方がいいね」 「うち、実家が不動産屋なんで、いい物件探しますよ」 「ホント? 助かる!」 どんな家がいいか話していたら、あっという間に私のマンションに着いていた。 「お茶飲んでく?」 モジモジして帰ろうとしない飛田に声を掛けると、パッと彼の顔が明るくなった。 私がお茶をいれている間も飛田のブツブツが聞こえてくる。 「いきなりはマズイよな」 「いや、でも既成事実を作っちまえば……」 「そんなことして嫌われたら元も子もないし」 「いや、こんなチャンスはもう二度とないぞ」 何だかもう可愛すぎて、いいかな?なんて思ってしまった。
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