とんでもない部下

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ハンドルを握る飛田をチラ見した。 こいつは本当に顔だけはいい。 もしかしたら、人事はこのルックスで採用を決めたのかもと思うほどだ。 柔道をやっていたとは思えない細身の身体に、整った顔立ち。 第一印象は営業にとって大事なことだ。 社会人としての常識を身につければ、結構戦力になるのかもしれない。 「仕事から帰ると奥さんの旨い手料理が待っているっていうのが理想ですよ。それがうちのママの味と同じなら言うことなしです」 ママ!? あ、今、背筋がぞくっとしたわ。 マザコンか? こんなイケメンのくせにマザコンなのか? もしかして、こいつにキツいことを言ったら、母親が会社に怒鳴り込んでくるのかもしれない。 『私のかわいい僕ちゃんをいじめないで!』とか言って。 私の白い目を物ともせずに、飛田はいつものようにヘラッと笑った。 「係長の手料理を食べてみたいです。明日、僕の弁当を作ってきて下さい」 助手席で私が絶句したのは言うまでもない。 *** 「信じられる? 係長とはいえ一応、上司よ? 上司に『弁当作って来い』なんてありえないでしょ」 「そいつ、加絵(かえ)に気があるんじゃないか? マザコンなら年上の女が好みなんだろ?」 「まさか! 優しい”ママ”と違って、私は怒鳴ってばかりだよ」 「ふーん」 興味なさそうに呟くと、恋人の正志(まさし)はまたテレビを見てゲラゲラ笑い出した。 正志だって、大学出たての22歳だ。 ナンパされて付き合い始めて半年。 仕事が終わると私のマンションに帰ってきて、一緒に夕食を食べる。 当然のように泊まって、朝食を食べて、私が作ったお弁当を持って出社する。 つまりは、3食私が作った食事を食べているんだけど、正志が食費を入れてくれたことはない。 新入社員の正志はまだ稼ぎが少ないから仕方ないと諦めている私もいけないんだろうけど。 実は最近、気になることがある。 財布の中から万札が消えていることが何回かあったのだ。 最初は、自分の勘違いだと思った。私は家計簿をきちんとつけるタイプじゃないから。 でも、目を付けていたワンピースを買おうと3万入れておいたのに、お店で財布を開けたら2万しか入っていなかった時、確信を持った。 正志に抜かれた、と。
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