とんでもない部下

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布団の隣に正志の姿はなかった。 時計を見ると、私が布団に入ってからそれほど経っていない。 正志はまだお笑い番組を見てゲラゲラ笑っているのだろう。 大して面白くもないのに下品な声で笑う正志を見るのが嫌で、私はさっさと先に寝たのだった。 トイレに行こう。ついでにお茶でも飲まないと、喉がカラカラだ。 寝室は和室なので襖を開けて廊下に出ると、案の定、リビングから芸人たちの騒がしい声が聞こえてきた。 なのに、目が合った正志がいたのはリビングではなく、廊下の先の玄関だった。 「何して」 何してるの? なんて聞くまでもなかった。 玄関に置いた私のバッグから財布を取り出した正志の手には万札が握られていたから。 「加絵」 引きつった微笑みを浮かべた正志が私の名前を呼ぶ。 きっと今、正志の頭は言い訳しようとして無い知恵を必死に絞っているところだろう。 「やっぱりあんただったんだ。いくら恋人でも黙って取ったら窃盗だよ!」 ”窃盗”という言葉に正志の表情が一変した。 「は? ざけんな。こっちはおばさん相手に精力使ってやってるんだ。これは報酬だよ」 ――ごめん、ほんの出来心で。もう二度としないから。 そんな言葉を期待していた自分がどれほどバカだったか、嫌というほど思い知らされた。 おばさん? 報酬? 確かに22歳の正志から見たら、三十路間近の私は”おばさん”なのかもしれない。 夜の営みだって、いつも私の方から求めていた。 だからって、こんなのは酷い。 「出てって! 警察に突き出されたくなかったら出ていきなさい!」 私の剣幕にビビったのか、正志は転がるように出ていった。
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