とんでもない展開

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メリットは、もうお金を盗られなくて済むこと。食費が半減すること。自分のペースで生活できること。そして、何よりもあの下品な笑い声を聞かなくて済むこと。 デメリットは、独り寝が寂しいこと。この歳でまた一から恋愛を始めないといけないこと。 朝の通勤電車の中で、昨夜の自分の行動が間違っていなかったか検証中。 もしかしてと疑っていたせいか、正志への未練は全くなかった。 朝っぱらから営業2課が騒がしい。 原因は飛田が母親と一緒に出勤してきたからだ。 若くて綺麗だから自慢の母親なんだろうけど、大の大人が”ママと一緒”なんてありえない。 それでも、部長に手土産を渡す母親の隣で飛田が居心地悪そうにしているところを見ると、さすがにみんなの白い目が気になるのだろう。 直属の上司だからか、私に飛田の仕事ぶりを尋ねた母親は「優しいいい子なんで、どうぞよろしくお願いします」と微笑んだ。 傍らで顔を赤くしている飛田に少し同情した。 過保護な母親は2課の全員の席を回って、ペコペコ頭を下げて帰っていった。 「牛窪係長、すみませんでした。ママに係長のことを話したら、是非会って挨拶したいと言い出したもんで」 連れてきちゃいました、とヘラッと笑う飛田にため息をついた。 一体、私の何を話したのか知らないが、実家はどこだとか兄弟はいるかとか治療中の病気はあるかとか、わけのわからないことまで母親に訊かれた。 「お母様にご丁寧にご挨拶に来ていただいて、こんなことを言うのは心苦しいけど、業務に遅れが生じるから、もう連れて来ないでよ?」 手土産の芋羊羹は私の大好物だから、ありがたく頂くけど。 「あ、はい。もう大丈夫です。係長のこと、素晴らしい女性だって褒めてましたから。僕のお嫁さんにピッタリだって」 へラッと笑った飛田の顔が照れたように赤くなっているのを見て、めまいがした。 何なの? お嫁さんって……。 どうやら飛田は私に好意を持っていて、母親に結婚したい人がいると言って私のことを話したらしい。 母親の質問の意図がやっとわかった。 「失恋の痛手を癒すには新しい恋って言うでしょ? いいんじゃないの? トンデモくん、黙って立っていればイケメンだし」 同期で親友の絵美里が、社食で飛田を見ながらニヤッと笑った。
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