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確かに遠目で見ている分には、飛田はカッコいい男だ。
同じ新入社員の女の子たちに話しかけられて、にこやかに答えている飛田を見ると、なんだか面白くない。
彼女たちと一緒のテーブルで、カレーうどんを食べ始めた飛田をつい睨んでしまう。
「……浮気者」
「え? 加絵、何か言った?」
「何でもない」
「トンデモくんも担当先ではうまくやってるみたいじゃない。意外と将来、有望かもよ?」
そうなのだ。
五友社との取引は担当の飛田が熱心に新製品を勧めたせいで、売り上げが伸びていた。
社内では未だに社会人らしからぬ態度を取ったり、口の利き方がなっていなかったりするけど、だいぶマシになってきたし。
「でも、7歳差って大きいよ。正志だって”おばさん”って言って、私をバカにしてたもん。飛田くんが30歳で結婚を意識し出した頃には、私はもう37だよ?」
出産だって子育てだって40近くなっていたら大変だろう。
それ以前に、その頃にはもう若い子の方が良くなっているんじゃない?
「なーんだ。加絵も結構その気になってるんじゃない。大丈夫。あんた、色気あるくせに童顔で若く見えるし、ジムで鍛えてるから出産も乗り切れるよ」
絵美里の根拠のない励ましに、ため息をついた。
その気になってる? うん。私、その気になってる。
毎日毎日、飛田からまっすぐな好意を示されて、嬉しく思わない訳がない。
人って不思議なもので、好意を向けられると自然とこっちも好意的になったりする。
食べ終わった飛田がトレーを持って立ち上がると、私と目が合った。
パッと嬉しそうに微笑む飛田にドキッとした。
思わず緩みかけた頬をグッと引き締めて、プイッとそっぽを向く。
自分のこの思いの名前を知っているくせに、私はまだ素直になれない。
7歳も年下の新入社員にデレデレしているなんて思われたら、上司失格だ。
「自分の気持ちに正直になったら? 若い子に取られてから後悔したって遅いんだからね」
絵美里の言葉がグサッと心に刺さった。
だって、絵美里。
飛田くんの周りにいる若い子たちの方が、私なんかよりもずっとお似合いじゃない。
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