天気雨

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思わず握りしめた手をなんとか開き、ぐしゃぐしゃになった紙切れまでもを広げる気力はなくそのままジーンズのポケットに押し込んだ。 葵音の手元のフライパンからの卵の焼ける音と、隣の鍋のスープからの美味しそうな匂いに紫音の素直な腹は空腹を告げる。 食器棚からコップをひとつ取り出し、水道水をついでそれを一杯、飲み干した。 もう1度、水道水をコップいっぱいについだとき、隣の葵音がフライパンから綺麗な形の目玉焼きを皿に移しているのが目の端に見えたのでそのまま、コップを持ってテーブルについた。 葵音はその綺麗な目玉焼きと野菜の少ないコンソメスープ、それからいつの間にか焼かれていたトーストを2枚のせた皿を器用に持ってきて言った。 「そんじゃ、俺は店に戻るから。これ食い終わったら皿、シンクに置いといて。」 そしてそのまま、さっき出てきた扉から店に戻っていった。 紫音は目の前に並べられたものを暫く睨みつけてから、スープをひとくち飲み、そこからは残りも夢中で口に入れていきテーブルにはあっという間に空の皿が並んだ。 そのまま決められた流れ作業のように皿を重ねてキッチンに運ぶ。 シンクに置いといてと言われたものの、紫音はそのままではなんとなく気持ちが悪く感じ、シンク脇においてあるスポンジと洗剤に手を伸ばす。 そこからはただただ無心に皿を洗い、掛けてある布巾で皿を拭き、食器棚のおおよその位置に重ねてしまった。 さてここからどうしようと思ったところでテーブルの向こう側の扉が開き、理央が顔を出した。 「お、なんだもう食い終わったのか。、、てなんだシンクに置いといていいって葵音言ってたんじゃねぇの?そういうとこ律儀だなぁお前。」 理央は、昨晩から紫音の中にあるような気まずさを感じさせない声でずかずかと部屋に入ってくる。 食器棚からコップをひとつ取り、さっき紫音がした様にそれに水道水をいっぱいについで飲みはじめた。
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