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「えぇ、ですから紫音ならうちにおりますのでご安心ください。」
遠慮がちな兄の声がリビングから聞こえてくる。
「いえ、しかし、、、本人が決めて来たことですのでしばらくは預からせてくださいませんか。」
電話の相手は相当怒っているだろう。
「はい、、。はい、では1週間はここに居させますので。」
失礼します、という声と受話器を置く音が響いた。
1週間か、、、。
その短い時間で一体おれには何が出来るだろう。
それまで気にもとめなかったセミの大合唱が、閉じた窓を貫いてやけに大きく聞こえてきた。
こんなに耳障りな音をだしていたっけ。
額を流れそうな汗をぬぐってなんとか立ち上がり、紫音(シオン)は1階の兄の元へ向かった。
「ごめん、兄さん。」
紫音の兄、葵音(キオン)は疲れたような顔をあげて、それでもにっと笑った。
「電話の声、聞こえたかもだろうが1週間はここに居ていいから。その間にいろいろ考えて、気持ちに整理つけときな。もう少ししたら理央(リオ)も帰ってくるだろうから夕飯まで上いていいぞ。」
理央、、、葵音が店主を務めるこの花屋で居候兼唯一の店員として働いている少年だ。
あいつにも、久しぶりに会えるのか。
しばらく会っていなかった分の少しの緊張と期待が紫音の胸に広がった。
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