家出

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そもそも、なぜ兄が祖父母や親族からあんなに疎まれているのかすら紫音は知らなかった。 何度か、祖父母に聞こうと試みたがあの家では葵音の名前を出しただけでも怒られ、葵音自身にもひらりふわりと躱されてしまう。 葵音と親族との関係、加えて両親のこともわからないことだらけの中で生きてきた紫音だったが、たまにこっそり会いに行くといつも少し困ったような笑顔で、それでも優しく接してくれる葵音のことが好きだった。 だからこそ、ここを逃げ場にしたことが罪悪感となって紫音の心を蝕んだ。 葵音の、疲れた笑顔がちらりと脳をよぎる。 申し訳ないと思いながらも、しかし紫音にはここしか逃げ込める場所がなかったのだ。 友達の家、とも思ったが周りも同じ受験生、こんな時期にお邪魔するのはさすがに迷惑が過ぎる、と踏み止まった。 同級生達は今、紫音がこうして立ち尽くしている間にもシャーペンを握り、必死に脳にしわを刻んでいるところだろう。 通っている予備校にはさっき、ここに着く前にしばらく休むと連絡を入れた。
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