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薄紫のカーテン越しに陽の光に差されて紫音は目が覚めた。
自分の家じゃない、、。
ここは何処だと一瞬混乱する。
そうだ、昨日、兄・葵音のところへ来たのだ。
タイマー設定したクーラーは夜中のうちに切れていて、身体中じっとりとした汗をかいている。
紫音は枕元に置いておいたスマートフォンを手に取り、時間を確認した。
明るくなった液晶画面に映る時計は10時28分を示している。
さすがに寝過ぎたな。
ぼんやりとした頭でそんなことを思いながら、なんとか起き上がりカーテンと窓を開け、夏の風を部屋に入れた。
紫音はしばらくそのまま、動かずにいたがふと思い出したかのようにベッドから這い出し、着替えを済ましてから顔を洗うために階段を降りていった。
空気はじっとりしているのに、相変わらず床はひんやりと冷たい。
その冷たさに紫音の目も覚まされていく。
一階のリビングには誰もおらず、静かに時計の秒針の音が響いていた。
隣の洗面台で顔を洗い、リビングを通ってその先、葵音が店主を務め、理央が唯一の店員として働いている花屋に向かう。
理央と顔を合わせることに気まずさを感じていないと言えば、嘘だった。
昨夜、葵音が呼びに来たあと夕飯を食べ、その後理央とは口を聞かなかった。
理央の行動に無駄と隙がなかったことと、それ以上に紫音が言われた言葉を意識し過ぎ、ぎこちなくしていた所為だ。
店を覗くとすぐに葵音と目が合った。
理央は接客しているのか、店先で1人の女性と話している。
女性はこの暑いのに長袖のカーディガンを着込んでいた。
相当な寒がりかなにかだろうか。
そんなことを考えているといつの間にか、葵音がすぐ近くまで来ていた。
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