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「おはよう。よく眠れたみたいだけど、受験生にしては遅い朝だね。」
葵音はにやっとしながら紫音の顔をのぞき込む。
「、、、枕が変わってなかなか寝付けなかったもんで。」
「へーぇ、紫音、君そんな繊細な子だったっけ。」
にやにやと笑ってはいるが、葵音の顔の奥には心配と気遣いの色がちらりと見えた。
「繊細なら、朝まで眠れなかったところだよ。」
紫音はなんとか言葉を見つけて、声に出す。
「はは、そうか。、、それより腹減ってない?なんか用意するからついておいで。」
そういえば、もう10時半だった。
寝過ごしていなければとっくに朝ごはんを食べ終えている時間だ。
「え、ちょ、お客いんのに店長が店抜けていいのかよ。」
「あぁ、あの子はね、確かにお客さんなんだけど理央の友達だから大丈夫大丈夫。」
「友達?」
「そうそう。だからほら、他のお客さん来る前にさっさと準備するから紫音も早くおいで。」
友達、と言われてよく見れば確かに、初めは女性という印象を受けたものの背格好や服装から同年代くらいの女の子にも見える。
葵音の言葉につられて理央と、その相手の女性、、、女の子を凝視しているといつの間にか葵音は店の奥、自宅のキッチンの方へ向かっていた。
紫音も続いて『店』を出る。
リビングに入ったところでテーブルの上に置かれている紙に目が止まった。
1枚のハガキだった。
それが何のハガキかを確認すると紫音の顔には動揺が広がる。
「兄さん、このハガキ、何これ。何でここにある!?」
思わず、ハガキを手に兄に詰め寄ったが葵音はあっけらかんと答えた。
「あぁ、それ。昨日廊下の所に落ちてたのを理央が見つけてね。紫音のだろ?なくしたら困ると思ってわかりやすいテーブルにだしといたんだよ。そーゆーのはちゃんと無くさないように持っとかないと、次から気をつけるんだよ。」
それは大学案内のハガキだった。
器楽や声楽などを専門的に学べる都内の大学から来たもので、昨日までは紫音の荷物の中にあったはずだ。
そうか、これを見られたのか。
『 お前それ本気で言ってるわけじゃねぇだろ、じゃなきゃなんで、、』
昨夜の理央の言葉の続きを想像する。
「、、、くそっ」
紫音はどうにも自分が情けなく思えてきて、それでも苛つきのやり場もなく葵音には聞こえないように小さく悪態をついた。
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