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「ニニギ様っ、お会いしとうございました」
「わわっ」
サクヤはミコトが現れた途端、目の色を変える。そして、ユキを押し退け彼の腕に絡みつく。
「どなたか知らぬが、私に何用か?」
よろけるユキをミコトは空いている手で支え、穏やかにサクヤに問いかける。
「覚えておりませんか?コノハナサクヤでございます。私、あなたの妻になりたく足を運びましたの」
ーー奥、様……。
神社での仕事以外やる気を見せない彼の常とは違う雰囲気にか、彼女の発言からか分からないが、どくどくと心臓が嫌な音を立てる。
「ミコト様、サクヤ様とご婚姻を結ばれるのは良縁でしょう。前向きにご検討されてみては?」
「……本気で、言ってるの?ユキ」
早口でまくし立てた言葉に、いつもより一際低い声が響く。
「はい。神使として僕はそう思います。そうと決まれば、サクヤ様に家へ上がっていただきましょう」
笑みを張りつけながら戸を閉め、客間に彼女を案内する。
お茶をお持ちしますと、ミコトとサクヤを二人きりにさせた。
「サクヤ様のためにも、僕は今一度気を引き締めねばなりません……」
台所で緑茶を淹れつつ決意を新たにする。彼にも隠していることがバレないようにと。
ーー僕が、女であるということを。
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