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シーフ……
シーフって──
愛美は目を丸くした。
シーフって盗賊──…だよね確かっ…
飲み込めなかった果汁が口から零れる。
ガイドブックには書いてあったけど……ホントに居るんだっ──
愛美は唖然としながら向こうから向かってくる砂煙の影に身動きが取れずにいた。
ラクダって早いっ……
悠長に観察してしまう。
西陽を受けて黄金に輝く毛並みがこの地の砂に溶け込んでいる。真っ直ぐにこの小さな町を目掛けて向かってくる少数の群れ。
黒く長い装束を風になびかせて迫ってくる姿は映画のワンシーンのように迫力がある──
賊達は町に入ると慣れた手付きで逃げ惑う町人に縄を掛けて捕らえ引き摺って回る。
大きな湾刀を片手にして、町中を物凄い勢いで駆け回るその姿に身動きが取れずに居ると、一際逞しく大きなラクダに乗った黒装束の男が愛美の目の前で足を止めた。
全身を覆った布の隙間から黒く艶やかな瞳が見据える──
「──…ふ…」
「──!?」
なんだか笑われたような気がする。
すっぽりと布に覆われてわかり難くはあるが、確かに漆黒の瞳が少しばかり緩んだように見えた。
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