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「ザイード様!」
「ターミル、後にしろ。今、取り込み中だ」
「しかしっ」
抱え込んだ愛美に強引に唇を押し付けながら、背後から声を掛けた者にザイードと呼ばれた男はそんな言葉を吐いた。
急ぎの用なのだろうか?黒い布に覆われた口からは少し嗄(しわが)れた年長者の声がした。
ターミルはその場を離れることも出来ずにオロオロとラクダの上で戯れるザイードの様子を伺っている。
愛美は繰り返し交差されて塞がれる強引な口付けに目眩が起き掛ていた──
重なる唇は荒々しいのに押し込められた肉厚な舌はゆっくりと唾液を遊ばせながら這い回る。
「なんだ──手応えがまったくないな?」
反応を全く返さない愛美の様子に男は顔を上げて愛美の唇を解放した。
くたりとなったまま抱かれた愛美はザイードの腕に躰を預け、気を失っている。
「………」
ザイードはその様子に驚いた目を向けると大きな声で笑いだしていた。
「接吻だけで気をやるとは恐れ入ったな…面白いものを見つけた」
「ザ、ザイード様っもしやその娘をっ……」
愛美を抱いたままニヤリと口端に笑みを浮かべるとザイードは腰から提げた湾刀をゆっくりと引き抜いた。
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