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「お前達が口をつぐめばよいだけの話だ」
抜いた湾刀の光る刃先を真っ直ぐにターミルに向ける。
「──っ…しかしその娘、日本人ではっ──…」
「日本人?ああ、これか?」
ザイードは思いきり意味深な笑みを浮かべた。
「これは密輸時に紛れたどこかの田舎の猿だ──俺がペットとして手もとで飼うが…何か言いたいことでもあるか?──」
「……!」
「ないだろう」
「はい…ございません」
ターミルはそう答えたまま両手を胸元で重ねて頭を深く提げる。
「それでいい…ここはお前にまかせた。俺は先に戻る」
気を失ったままの愛美を抱え直し、ザイードは手綱を牽くとゆっくりと来た道を帰っていく。
悠々たる背中──
眩しいほどの太陽の加護を背に受け立ち去るその姿を見送りながらターミルは、はあ…と溜め息をついた。
目だけで威厳を示す。
上に立つにはなくてはならない存在感。
口にせずともそれは滲み出している──
「ほんとにあの位置に居させておくのは勿体無い方だ──」
ターミルはそう呟くと縄に掛けた町人達を連れていくよう仲間に指示を出していた。
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