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「ザイード様が帰ったぞ!門をあけろっ」
砂の中に潜む白い壁──
灼熱の黄金色した絨毯の上に、堂々とそびえる大きな石の壁の鉄門がゆっくりと開いていく。
門をくぐると涼しげな白い装束を纏った男が両手を胸元に充てて頭を提げながら出迎えた。
「今期の収穫は如何様でございましたか?」
「ああ、まずまずと言ったところだ」
「では、狙い通りだったと?」
「まあな」
「さすがでございます。ザイード様」
傍まできて伺いを立てる男にザイードはラクダから降りると手綱を預け、歩きながらそう答えた。
石の壁に囲まれた中では一つの小さな集落のように人々が暮らしている。
大小に張られた円形型の色鮮やかなテントの建物。
昼夜、寒暖の激しいこの土地ならではの民芸の織物がそのテントの入口を飾っている。
男は預かったラクダの手綱を門を閉めた者に渡した。
男はザイードの後ろに付き添いながら、ザイードの小脇で揺れる網にぐるぐる巻きにされた“物”にちらりと目を游がせていた。
「ザイード様!お帰りなさい!」
「ああ、アシェラフ。マムの手伝いは済んだのか?」
駆け寄ってきた男の子にザイードは頭を撫でながらそう声を掛けていた。
「済んだよ!」
「えらいぞ。褒美にこれをやる」
黒い衣服の袖口から果実の入った袋を取り出すとザイードは男の子にそのまま手渡した。
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