第1章 砂の都

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顔を綻ばせ、礼を言って立ち去る小さな背中を見送ると 「ところでザイード様…その小脇に抱えた物はいったい──」 「ザビアで捕獲した子猿だ──…」 「なるほど…」 後ろから着いてきていた男は先程から気になっていた事を口にした。 「では夕食はその子猿の分も食の間に御用意を──」 「寝所に運べ」 「………」 「それ以外、呼ぶまでは誰も近づけるな──」 「……かしこまりました。仰せの通りに──」 壁の中にある小さな集落のさらなる奥に足を向けた二人は竹の柵で囲われた敷地内に入った。 柵の中に設けられた数あるテント。そのまた一番奥の真っ赤なテントの中に消えていくザイードの背中に男は頭を提げた。 夕刻の砂漠── 傾いた燃えるような太陽が黄金の砂地を鮮やかな茜色に染め上げる。 滑らかな大地。 一度(ひとたび)風が吹けば二度と同じ景色は拝めない砂漠の雄大な風景は民の心の癒しでもある。 二度はない── だからこそ目に焼き付ける。 夕食前、堕ちていく太陽に向けて民は地に頭を付けると大地の鼓動を感じながら神に祈りを捧げた。
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