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ぼやけていたものに焦点が少しずつ合って、焦点が合っていたものが少しずつぼやけていくように、何かを得ることも失うこともできずに日常はただ惰性の上で上滑りしていく。 ある日、教室に新しいクラスメイトがきた。 「転校生を紹介する」 「八重澤ユウキです! 昔、この辺に住んでたこともあるんで、いろいろなつかしー感じですっ。よろしく!」 元気のいい挨拶に、教室の中に小さな笑いが起こる。 「じゃあ席は、仲里。仲里?」 呼ばれたことも気づかないでいると、隣の女子につつかれる。顔をあげて慌てたように立ち上がると、先生が転校生に私の後ろに座るよう指示した。 近づいてきた転校生は、ふと私の脇で足をとめてから後ろの席についた。 「じゃー授業はじめんぞー」 ホームルームが終わってそのまま授業が始まろうとしていた時、背中を軽く突つかれた。 「ミウ、ミウだろ? オレ幼稚園ん時一緒だったの覚えてる?」 ひそひそと転校生が話しかけてきた。 記憶を探って、そうして思い出す。 まだメガネをかけてもいなかった、そして世界は自分のためだけにあると無心で信じられた頃の、幼い友人。短い時間の幼なじみ。 かすかに頷くと、八重澤くんは「うわーマジ。すっげ嬉しー」と小さくガッツポーズをしながら屈託なく笑った。その笑顔は確かに思いでの中で見覚えのあるものだった。 「ミウ、メガネかけるようになったんだ? なんか印象違ったから最初わかんなかった」 「あの、授業集中したいから……」 「わわ、ごめん。でもほんと懐かしくて。また昔みたいにしゃべろーな」 八重澤くんはそう言うと、太陽が弾けるように笑顔になった。茶色い髪が朝の光にすけて、それを見た瞬間、今の八重澤くんがようやく遠い過去の男の子と重なった。 その後も、八重澤くんは授業の合間や昼休みに、何かと話しかけてくるようになった。教室でも存在の薄い私の立ち位置など気づいているのかいないのか、無邪気に。 「ミウーミウー、見てて見てて」 体育館のバスケのコートで呼ばれて振り返る。私に手を振った八重澤くんがバスケのボールをドリブルしてゴールにたたきこむ。 「やっる、八重澤!」 男子に囲まれた隙間から照れたように笑う八重澤くんが見える。 「なんか八重澤くんって、ミウにすっごいなついてるよねー」 「ねね、実際ミウはどーなのよ」
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