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八重澤くんが何かと話しかけてくるせいか、いつもは話をしない女子が周りにいる。 「ただ幼なじみだったから……」 「けっこう優良物件だと思うんだよねー。ミウだってまんざらじゃないでしょ?」 「そんなこと」 ないよ、という言葉は先生の集合の合図にかき消される。先生に皆の注意がいって息苦しさから解放される。ふと視線を感じて顔をあげると、八重澤くんが私を見て小さく手をふった。 こういう状況には慣れていない。 今まで他人と親しくしてこなかった。図書館と勉強のある時間に囲まれていれば、ゆっくりだけど世界は私を連れて沈んでいく。それ以上のものは必要なかった。 ふっと視線を移すと、一之瀬くんの視線とかちあった。そらしたのは向こうが先だったけれど、その視線の裏に、ネコをいじめていた時の一之瀬くんが見えた気がした。 八重澤くんはことあるごとに「ミウ」と呼んで私に頼るようになった。男子から下の名前を呼ばれたことなど、小さな頃以来だろう。でもそのせいか、私の周りには少し人の気配が濃くなったみたいだった。 「なー八重澤、お前仲里のこと好きならつきあっちまえよー」 あっという間にクラスになじんだ八重澤くんを男子がからかう。 「あはは、ミウにその気があればねー、って何言わすんだー!」 「うっわ、マジー。オレは無理だわ」 女子の黄色い声と男子のひやかす声とその他の雑とした声が重なりあって、息がつけないほどに人の気持ちが充満している。 「やめなよ男子ー、ミウが困ってんじゃん。八重澤くんも、本気かどうか分かんないこと言わないでよねー」 かばわれるその気持ちさえ、受け止めきれない。 両手のひらからこぼれ落ちて、地面に這いつくばって拾うことさえ満足にできない。 「でも八重澤とつきあうって仲里さんにはいいことだと思うな」 頭から冷や水をかけられたように、背中がこわばった。 「えー副会長まで何言ってんのー?」 「いやさ、仲里さんっておとなしいじゃん。明るい八重澤とつきあうといい影響受けるかなって」 明るく笑う一之瀬くんの声が、自分の内側にある堰を突き崩していく。 きっとここで笑えばいい。笑って、皆のノリに合わせれば、世界は好転していくはずだ。
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