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残された灰皿の煙草を拾い上げて、置き去りにされたライターで火をつけた。手が震えてうまくつけられない。何度か着火させようとして、ようやく火がついた。変な角度に曲がった煙草に口をつけて吸い込んだ。
煙が一気に肺を蹂躙して、大きく咳き込む。
涙がこぼれた。
またネコをいじめるのかな。
場違いな考えが頭をよぎって、思わず笑いそうになった。
私を本当の言葉に繋いでくれていた糸が切れて、渦巻く流れにひきずりこまれていくみたいな気分の悪さがせりあがる。
慌てて洗面所に駆けこんで、吐いた。
指を喉の奥へ突っ込んで、体に流し込まれたものをすべて吐き出すように。
洗面所の鏡には、迷子になって泣き出す寸前の顔がうつる。
一之瀬くんとの繋がりだけが、血の通った生きたもののようだった。
あいまいな輪郭の中でも、真実は掴めていたような気がしていたのに。確かに体の内側を焼き尽くして滅ぼそうとするほどの烈しい熱がそこにあったはずなのに。
私はその時になって、呼吸できる術を失ったのだと気づいた。
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