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汗が流れ落ちる。体の内側に熱がこもって、ぬぐえない。 夏の断末魔のようにセミの声が続いている。 動物のような息づかいが部屋に充満して、このまま深く深く潜って浮かびあがれないほうがどんなに楽だろう。 制服が貪欲に吸う汗が悔しくて、なぜか笑いそうになる。 「……なに、余裕こいてんの」 針で何十回、何百回も高速で刺されたかのように、心臓が縮こまる。 細胞の一つ一つが潰されて溶け出したように重く呼吸している。 夏の終わりを孕んだ空気がまとわりつく。それをはらうように身じろぎすると、鎖骨にたまっていた汗が首筋を落ちていった。 「飽きた」 投げられた言葉は届かず、行き場を失って横たわるシーツの上にたくさんのシミをつくった。 いくつも滲んだシミは消えずに、ただ消えずに壊れていく。 世界に平等にあるはずの空気が動いて、どこかに収斂していったと同時に、沈んでいた体が浮かび上がった。 時間が一拍ずつ遅れるかのようにゆっくり起きる。澱んで湿った匂いは、ちょっとだけ図書館の地下蔵書室を思わせる。 部屋にはすでに誰もいない。布で隠れた体の部分以外に、痕跡は残さない。 しわくちゃだらけの制服のスカートばかりは、私が名残を惜しむようにアイロンがけするけれど。 小さな庭に面した渡り廊下に出ると、限りなく弱くなった太陽の光がすりきれた板をうつす。額に張りついた髪の毛をよけ、ずり落ちかけたメガネを元に戻す。 なぜか、その狭間に落ちて、溺れたように呼吸している金魚がいるような気がした。
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