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トレーニングを積んで動きが洗練された彼は、そのまま芸術にも通じる。まるで閉じ込められたガラスの中で泳ぐかのような、健康的に見えてとても曖昧な。 あの引き締まった体が、時々爽やかさとは反対に病的なまでに運動することを、私は知っている。 「吉原、パス!」 皆といる時の彼の声は、こんなにも澄んで明るいというのに。 ふいにとてつもない衝撃が顔の前で弾けて、足元が揺れた。 ぼやけた視界の向こうにオレンジ色のボールが転がっていくのが見えた。 何が起きたのかようやく理解したのは、クラスの女子が駆け寄ってきてからだった。 「ミウ! 大丈夫!?」 「ちょっと誰よ! ノーコンすぎるでしょ!」 抱き起こしてくれる手が柔らかい。 そのままもたれて眠りについてしまいたくなる。 「わっりぃ、わっりぃ。まさかそこに立ってると思ってなくてさー」 「吉原、責任もってミウ保健室連れてきなさいよー」 「え、マジ。オレ?」 「あんたがミウにボールぶつけたんでしょ。顔面だかんね、女子の顔!」 「え、え、いや、だってオレ一之瀬にパスしたつもりが」 「言い訳無用、ほらミウ鼻血出してんじゃん」 生温かい液体が床にこぼれ落ちる。 ティッシュをもらって抑えながら立ち上がる。 「1人で大丈夫……」 「吉原!」 「うー、わか」 困っている吉原くんの肩を、一之瀬くんがつかむ。 「いいよ、オレが行くから。ミスってパスとれなかったのオレだし」 「わ、悪い、一之瀬」 「一之瀬くん、やっさしー」 「いや、私、一人で……」 「いこう、仲里さん。頭打ったと思うから、保険室できちんと看てもらおうよ」 一之瀬くんが私の背中に軽く手を添える。 誰も私の言葉を聞く人はいない。 「さっすが生徒会副会長! 吉原お前見習えっ」 「わ、悪かったよもう……」 騒がしさを背中にしながら、一之瀬くんに促されるようにして保健室へと歩く。 授業中の学校は、どこもかしこも息をひそめているようで、その中を縫っていくのは少し怖い。 いつのまにか一之瀬くんは、私から少し距離をとって前を歩いている。たった数歩の間に降りた沈黙はけだるく、言葉なんてものが存在しないかのように緊張の糸が張りつめる。 「先生、先生?」と保健室のドアをノックしてから、一之瀬くんは黙って開けた。
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