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「下校時間過ぎたから気をつけてな」 ふいに飛び込んできた音に振り返ると、生活指導の先生が図書室をのぞきこんでいた。 6時を過ぎている。 グラウンドから響いていた野球の音はすでに明日へと去っている。 教科書や参考書を片づけて、夕方の色を宿した図書室を出る。 古今東西のたくさんの思念が浮遊して、それが私の口から体内へと忍び込んできそうで慌てて口を閉じた。 名前の失われた誰かの笑い声をすみっこに隠した渡り廊下は延々とのびている。水が表面張力を破ってこぼれ落ちるグラウンドの水道は、去っていった昨日と今日を惜しむように小さな落下を繰り返している。 ずり落ちたメガネをかけなおし、正門を出る。 日々は何も変わらない。ただ繰り返される。 私は閉鎖的な世界に何度も連れ戻されるような既視感を覚えながら家路を急いだ。
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