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選んだのは“オレと行く方”なんだ。
形容し難い感情がふつふつと湧き上がる。
バン…と重い音を立ててドアが閉まったのを合図に、
宿泊先のビジネスホテルの場所を告げようと身を乗り出したその時、
「桜町1-25へお願いします」
彼女が聞き覚えない住所を告げた。
それを聞いて、運転手は無愛想にハンドルを切って発進させた。
そういうこと、か………。
なんとなく玲乃の意図がわかったオレは、シートに深くもたれかかり、
右側の彼女の、少し震えた手を掴まえた。
繋がった手から視線をオレへと向けた玲乃は、もう既に顔を歪めていて、
「ブサイクになってんぞ」
からかってやらないと、すぐにでも泣き出してしまいそうだった。
くすっと綻んだその顔に、つられてオレもふふっと笑った。
これからやって来るであろう悲しい結末に立ち向かおうとする強い覚悟が繋いだ手のひらから伝わってきて、
オレは、大丈夫だよと伝わるように玲乃の手をきゅっと握り締めた。
あいつが住んでいるというそのマンションに着くと、二人で一旦車から降りた。
「10分でケリつけて、ここに戻って来い」
「わかった」
「うっし。行ってこい」
「…………和也?」
「ん?」
首元を覆うマフラーをスッと外すと、それをオレにぐるんと巻き付けた。
「待ってて。行ってくる」
「おぅ」
エントランスへと消えていく後ろ姿を見送りながら、
大丈夫……と自分にも言い聞かせて、車内に戻った。
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