毒をまとった妖魚

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部屋は水浸しでウロコが散乱していた。 誠一は激しい目まいと共に急激な睡魔に襲われ、目を細めるとウロコのキラキラが目に入って来た。水槽の向こう側にあるベッドで空と添い寝したかったが力が入らず、そのまま仰向けに倒れ込んでしまった。まぶたは重くなり開くことができない。そんな中で現実的なことを考えていた。 〝空のこと役場に届けを出さないとならないな。同居人…いや、表面上は養子が良いかな〟 〝母さんとおやじ、孫ができたと喜んでくれるかな。本当の孫のように可愛がってくれるかな…〟 誠一は今までの苦しい気持ちから解放され、これからの幸せな生活を思いながら深い眠りに入った。 ピチャ…ピチャ……チャプン‥ 誠一は揺れながら目が覚めた。 夢を見ていたのだろうか。 〝空は俺を一生愛せるか?〟 空に問い掛ける言葉が頭に残っていた。 それにしても心地の良い揺れである。 〝船の上か?〟 すると天井が開いた。真上には、夜空の扉を開くかのように灰色の雲が左右に移動している。白くなり掛けた夜空に、消え掛けてる星がパラパラと見えた。薄暗い朝である。 〝まずい!もう仕事が始まってる頃だ!〟 そこにゆっくりと話す声が聞こえた。 「狭かったろう?」 「ああ、何てきれいなんだ」 聞き覚えのある言葉。そして見覚えのある黒いバスローブ。 薄暗い中に青白い肌がにじむように映える。空だ。 誠一は体が自由にならない。 〝縛られてるのか?〟 バタバタと反ってみるが自分の体が見えない。見えるのは、水しぶきを上げる尾びれであった。 空の口元が笑った。そして出た言葉。 「喰うわけないじゃん」 空がこの町に来て最初に覚えた言葉だった。 誠一は状況が理解できず、言葉も出ない。 空がクーラーボックスを傾けると、誠一は真っ逆さまに海へ落ちて行った。垂直に、水しぶきをほとんど揚げずに海に入り、そのまま逃げるように泳いだ。 町がどんどん遠ざかる。この速さ、そして息が苦しくならない。自分の姿は見えないが、魚になったことを実感していく。 〝空、空、空!!あんなに愛してたのに!〟
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