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誠一は、たっぷりの海水を注いだ水槽に魚を放した。
「ごめんな、狭かったろう?」
そして親方に分けてもらった、漁で使う餌を魚に与えた。中型の魚をぶつ切りにしたもので、もちろん焼くと人間も食べることができる。魚はそれにかぶり付き、あまり噛まずに呑み込んでいく。
誠一はシャワーを浴びながら、一人暮らしは気楽で良いが、生き物が一匹いるだけでこんなに気持ちが癒されるものなのかと、これからの生活を考えると楽しくなった。
黒いバスローブを着て部屋に戻ると、暗闇で魚の青白いウロコが光っている。まるで、遠くの方でたくさんの灯りが灯されているような、ボ――ゥと暗闇ににじむような蒼い光りである。そして水槽の中を照らす照明を点けると、それが反射して、宝石のような光りを放った。どちらにしても美しい。誠一はすっかり魅了された。
まだ暗い朝、誠一はいつものようにバタバタと出勤の準備をする。
魚は昨日と変わらず光りを放って、水槽の底で休んでいる。
誠一は餌を入れてやり、目に焼き付けるように魚を見てから、自分で作った大きなおにぎりを片手に、頬張りながら車を運転して出勤した。
今日も仕事は順調。大漁である。 誠一は大漁の魚を見ながら、水槽の魚を忘れることができない。魚に会いたい気持ちが抑えられないくらいである。
仕事が終わり、スーパーで買い物をして行くことにした。
まずは餌にする魚、そして刺し身用の海老を二人分。惣菜コーナーで肉料理、後は缶ビールをかごに入れ、会計を済ませて足早に車に戻った。二人分の海老を買ったことにウキウキする。誰かと食事を共にするのが、こんなに嬉しいとは。
アパートに着いて、真っ先に魚のもとに向かい「ただいま!」と声を掛けた。
魚は誠一の方を向いて、尾びれを左右に振っている。その姿は、嬉しそうに「おかえりぃ」と答えているかのようで、誠一は照れ笑いして風呂に入った。
「さぁ、食事の時間だぞ」
朝に入れた餌は一つも残っていない。
「腹減ったろう?俺もペコペコだよ」
誰にも気兼ねなく話している。魚のちょっとした仕草が、誠一には何か答えているように感じるのだ。
まずは生魚を一匹、そして海老を殻付きのまま入れてみた。魚は生魚から食べ始め、海老も口に含んだ。
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