毒をまとった妖魚

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誠一も茶碗に盛り上げた御飯を用意して、周りには買って来たおかずを広げた。そして海老の殻をむき、醤油とわさびを付けて食べた。 「うん、うまい!」 魚と一緒に食事をすると、一人で食べるよりも断然美味しい。食べながら笑顔になってしまう。 すると魚が、口から海老を吐き出した。 「ん、どうした?具合悪いのか?」 魚は目をギョロッとさせて誠一を見ている。そして水槽の前に置かれたテーブルの高さまで沈み、おかずに向かって鼻先をツンツンと水槽のガラスに当てて来た。 「お前これが喰いたいのか?」 誠一は〝まさか〟と思いながら、殻を剥いた海老に醤油とわさびを付けて与えることにした。 魚は、ご馳走が水に浸からないようにと、水面から顔を出して口を開けた。誠一が魚の口に海老を入れると、魚は味わうようによく噛んで飲み込んだ。 「魚が刺し身をうまそうに喰った!」 試しに肉も与えてみた。 「ぅわぁ喰った、うまそうに!」 誠一は、魚と楽しく食事しながら缶ビールを飲み始めた。すると魚は落ち着かない様子で、ビールに顔を近付ける。 「まさかぁ、さすがにこれは飲まないだろう?」 そう言いながら、水面にビールを注ぐ真似をすると、魚は顔を出して口を開けた。そこにビールを入れてやるとゴクッと飲んだ。 「お前、ビール大丈夫なのか?」 魚が美味しそうに飲むので、少しずつ与えているとビールがなくなっている。飲ませ過ぎてしまった。 魚が水槽の底に潜り、うつろな目で「ゲフッ」と言うと、ブクブクッとゲップの泡が上がった。 「フフッ、お前おもしろい奴だな」 誠一は魚に対して異常な感情を抱いていた。自分では認めたくないため感情を抑えていたが、心が苦しい。魚に恋をしてしまったのだ。 「こんな気持ちになるなんて…」 誠一は灯りを消して、魚を眺めながらビールをもう一本飲んだ。 「そういえば名前考えないとな」そう言ってこの夜は眠りに就いた。 朝目覚めると、魚は誠一の方を見ながら泳いでいた。「おはよう」と言っているようだ。誠一も「おはよう」と言って、水槽に生魚を入れた。 「ごめんな、俺がいない間はこの餌で我慢してくれ」 誠一は魚を見詰めてから仕事に向かった。
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