毒をまとった妖魚

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「恋人を男らしい名前で呼ぶのも何だかなぁ」 魚は、左右に体の向きを変え、こちらを向く。それを繰り返している。どんな名前を付けられるのかと落ち着かない様子である。今では誠一の言葉が理解できるようだ。 誠一は食事をしながら考えることにした。 魚にサンドイッチを与えると、器用に一口喰いちぎりよく噛んで飲み込む。 「かわいいなお前。なんてかわいいんだろう……ハァ…」 溜め息が出るほど愛おしい。 指先で頭を撫でると毛のようなものが生えていた。茶色い藻のようである。 そして、何気に一歩下がって全体を見ると、体が大きくなっていた。 「お前大きくなったな。どれくらい成長するんだろう?水槽狭くなるかな?」 しかも目の色がグレーになっていた。最初は照明のせいだと思っていたが、間違いなくグレーの目をしている。 魚に話し掛けながら人差し指を差し向けると、魚は指を口に含み、気持ちの良い力加減で優しく噛んだ。それが魚の、誠一に対する愛情表現なのだろうか。誠一はますます切なくなる。 「お前は、俺をどう思ってるんだ?」 誠一は独り切ない気持ちを、どこにぶつけて良いのかわからない。 だが、その前に早く名前を付けたくて、魚に噛ませている指を軽く揺らしながら目をつぶり、考えてみた。 「ん――…」 誠一が再度考え出すと、魚はまた落ち着かない様子になった。 魚が離れた人差し指を、水槽の水にヒタヒタと浸けながら思い付いた。 「お前、海から来たから空って名前はどうだ?」 魚は、誠一の方に体を向けて動きを止めた。名前の由来がそれでは残念な気持ちなのだろうか。 それでも「名前が決まったお祝いをしよう」と誠一が酒とつまみを持って来ると、嬉しそうに泳いで見せた。 まずはビールで乾杯。そしてブランデーを飲み始めた。 空は一口飲んでは一泳ぎしている。 「おい、そんなに動き回ると悪酔いするぞ」そう言いながら誠一は嬉しそうである。 つまみにしたチーズハンバーグは、空の大好物のようだ。誠一は空のことをまた一つわかった気持ちになった。 外は暴風雨であるが、部屋の中ではゆっくりと時間が流れていた。 ピンポンピンポーン…… ドンドンドン! 「せぇ、せえ!」 夕方、田丸涼が訪ねて来た。
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