毒をまとった妖魚

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誠一の車があるので、アパートにいるはずだと思った。ドアノブを回してみると扉が開いた。 「せぇ、いるんだろう?何度電話しても出ないから…」そう言いながら入って行くと、部屋の中は薄暗い。 水槽の中に照明が当てられ、魚が底で静かに休んでいた。 水槽から少し離れたところにソファーがあり、誠一が座っている。 何とも言えない異様な雰囲気に、田丸は息を飲んだ。ぐったりと背もたれに寄り掛かる誠一の前にゆっくり回って見ると、水槽の照明で誠一の顔が白っぽく浮かんだ。その表情は、薄ら笑いを浮かべ、魚をまっすぐ見詰める目は瞬きをせず瞳孔が開き、まるで笑ったまま死んでいるように見えた。 誠一が田丸の存在に気付き、真顔になって目線を向けて来た。 「涼さん?」との誠一の言葉に、田丸は「ああ、びっくりした…」と言うのが精一杯だった。冗談でも〝死んでるかと思った〟とは言えなかった。それでも少し安心したが緊張感は抜けない。 「海が大荒れだよ。この天気は明日も一日収まらないみたいだ」 田丸の心臓が痛いくらい打っている。ここに長居してはいけない気がしていた。 誠一が「少し休んで行きなよ」と言って、冷蔵庫から缶コーヒーを3本出して来た。 田丸は、もし誠一に悩みがあるのなら聞いてやりたいと思い、ソファーに腰を下ろし、タバコに火を付けた。 誠一が「昼間から酒飲んでたら少し疲れたよ」と言いながら、加えタバコで魚の方へ歩み寄った。魚にコーヒーを飲ませ、更にはタバコも吸わせている。誠一には当たり前のことになっていたが、普通の人にはただならぬ光景である。田丸は驚きのあまり目が離せない。そして誠一が魚に喰われる日が来るのではないかと不安になった。それでも何か会話をして雰囲気を和らげなければと、絞り出すように言葉を発した。 「その魚、何の種類だ?」 「何を食べさせてるんだ?」 誠一は「種類はわからないけど雄みたいだよ」「何でも喰うよ。刺身、焼き肉、中でもチーズハンバーグが大好物で酒も飲む、なぁ空」と楽しそうに答えた。
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