2人が本棚に入れています
本棚に追加
田丸は〝異常だ〟と感じた。狂ってるようにさえ見える。
「空って名付けたのか。大きくなったな」と言いながら〝この魚、本当に毒があるんじゃないか?〟と思った。
田丸は心配が残っていたが、他の同僚達とも連絡を取るためアパートを出た。
外は暴風雨。風で何かが、道路に打ち付けられながら転がる音がする。
だが、この部屋では〝二人〟だけの異様な空気が流れていた。
「空、明日も休みになりそうだ。もう一日一緒にいられるよ」
そしてまた、ブランデーをちびちびと楽しみながら飲み、夜を明かしたのだ。
朝方、誠一は空の眠る姿を眺めながらソファーで横になり、鳴り止まない雨風の音を聞きながら眠りに入った。
目が覚めたのは昼過ぎであった。空は尾びれを揺らしながら誠一を見ていた。
「空、ごめんな、腹減ったろう?」
誠一は得意の焼きそばを作り、空と一緒に食べた後、ゆっくり風呂に入ることにした。
風呂上がり、腰にバスタオルを巻くと、大きな雷が鳴った。
部屋へ戻ると空の様子がおかしい。空の体はさっきより成長して、狭くなった水槽の中で勢いよく左右に尾びれを振っていた。照明は今にも切れそうに点滅している。水槽の水がバシャバシャとカーペットを濡らし、ガラスに亀裂が走る。
「空、どうしたんだ!?危ない!!」
裂けたガラスから水が出始め、とうとう水圧に耐えきれず割れてしまった。空は勢いよく流れ出す水に乗って、歩み寄って来た誠一に向かって飛んだ。誠一は両手で受け止めたが、仰向けに倒れてしまった。
後頭部を打ち、そこを手で擦りながら起き上がると、誠一の両膝の上に尻餅を付いて横に座る青年がいた。裸で水に濡れている。
「…あ、あ…う……」
青年は思うように声を発することができないようだ。
誠一は思わず足元から上へと舐めるように見てしまった。
二十歳位だろうか。青白く、男にしては少しきゃしゃな体はプルプルと震えている。そしてグレーの瞳、ショートカットでミルクティー色の柔らかそうな癖毛。光るウロコが首筋や胸に残っていた。誠一はそれを指で剥がし、よく見てから、この青年が空なのかと少しずつ確信していく。
「あ、ご、ごめん…」そう言って誠一はソファーに手を伸ばし、バスローブを取って青年の体に掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!