その壱

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最後の標的を殺す時には、頭巾を取る。 それは彼にとって、その日の仕事が終わることを意味していた。 頭巾をつけている自分が暗殺者ならば、それを取った自分は何者なのか。 答えは、わからない。 だが、暗殺者以外になれるのではないか。 侘丸はそう考えていた。 この時も、例外ではなかった。 標的に静かに近づきながら、彼は自らの顔を曝け出す。 「ひ、ひいいいいいいいいいい!!」 うるさい。 断末魔なぞ聞き慣れた。 「お願いだ、後生だ、助けてくれ!もう悪いことはしねぇから…。」 うるさい。 命乞いなぞ聞き慣れた。 「やめてくれぇええ!」 だが、侘丸がこの仕事に飽きを感じたことはなかった。 これしか、彼は生き方を知らないのだから。 振り下ろされた脇差によって吹き出されたモノは、悪人の、汚らしい、赤黒い脳漿だった。 「……。」 「……。」 耳に入り込む音は、赤い雫が地に落ちるモノだけとなった。 だが、そこに侘丸は違和感を抱いた。 「……?」 音は、二つあった。 と、同時に腹に痛みが走った。 侘丸の腹部からは、赤が零れていた。 いつやられた? この男を殺る前からそれは溢れていた。 何故気がつかなかった? 自身も男を追いかけるのに夢中だったということであろうか? 痛みを忘れるほどに? 「……っ。」 侘丸にとって、それは不覚でしかなかった。 盗賊の奴らに深手を負わされるなどとは。 「……。」 血を、流し過ぎた。 意識が、遠のく。 「……?」 落ちていく瞼の後ろの双眸で、彼はあるモノを見た。 それは、穏やかな川だった。 水が流れる音も聞こえないほど、穏やかな川であった。 気がつかなかった。 イヤ、ホントは知らぬ間に意識していたのかもしれない、な。 だから、痛みを忘れた。 忘れられないことが、あるから。 それをずっと考えていたのかもしれないな。 男はその場に倒れた。
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