その弐

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声なんていらないんだ。 さぁ、泣き疲れただろう? だから、眠ってくれ。 昔の僕。 「……。」 …夢、か。 「……?」 侘丸が目を覚ました時、彼の眼前には見知らぬ天井が広がっていた。 「!」 ここが民家であるということにはすぐに気がついた。 だが、何故自分がそんなところにいるのか、侘丸にはわからなかった。 侘丸は跳び起きると、すぐに腰を低く構えた。 脇差を抜き…。 ぬ、き…? 「……?」 脇差が、ない。 焦る暇も与えられず、部屋の襖が開かれた。 「あ、起きてる!」 薄汚いべべを着ている。 侘丸がそう考えるより先に声の主である少女は、彼に詰め寄った。 …満面の笑みで。 「いひー!」 「……?」 侘丸は警戒を強くする。 自分が置かれている状況が全く理解できないからだ。 何故自分はこんなところにいる? 「お腹。」 「……?」 「お腹、まだ痛い?」 「……!」 侘丸は思い出したかのように、腹をさすった。 そこにはボロボロになった衣類の生地みたいなモノが巻かれていた。 痛みは、なかった。 「痛くないでしょー。私が介抱したんだからね♪薬草だって塗ってあげたんだから!」 ますます、わからない。 何故この子は僕を助けた? 「あなた名前は?どこから来たの?」 「……。」 「黙ってちゃわからないよ。」 「……。」 「口ついてるでしょ?喋れないの?」 「……。」 侘丸は静かに少女を見つめた。 「英雄さんは無口なのね。」 「……?」 英雄? 何の話だ? 「ん?何、惚けた顔して??ほら、」 少女は侘丸の手を取り、外へと連れて行った。 そこで侘丸は気づいた。 両の手で数えられる程ではあったが、民家は一軒だけではなかった。 何軒か建ち並ぶその姿を見て、侘丸はここが村であると理解した。 すれ違う村人たちが、侘丸をじろじろと見やる。 頭巾をしていない侘丸の顔は、ごく普通の青年であったが、その形はやはり不気味だった。 だが、彼らの視線の中にはそのような暗い眼差しだけではなく、少女のように明るいモノを向けてくる者もいた。 そして、また、彼は気づいた。 彼が連れてこられた場所。 それが先日、盗賊を殺したあの川であることに。
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