雪夢

6/6
前へ
/6ページ
次へ
・・・さん・・・さん 僕は、誰かに名前を呼ばれて目を覚ました。 病院の個室にいた。 目を覚ました瞬間、母親が泣きじゃくり、 白衣を着た人間が何人かが、 僕の顔の周りを調べ始めた。 そうだ、全てを思い出した。僕は大学の山岳部で、仲間と雪山に登っていたんだ。 最後の記憶は、尾根を登っている途中で聞こえた地響き。 そうか、他のやつらは大丈夫だろうか。 僕は放心状態のまま、もう大丈夫とか、あと数週間は様子を見ようとか、そんな医者の話を聞いていた。 「いやあ、お母さん、これは奇跡としかいいようがないですよ、あそこの雪山は『人食い山』と呼ばれていますからね」 白衣を着た男が、僕の目を調べながら母親に話しかけていた。 「この病院にもね、数え切れないくらい遭難者が運ばれてきましたよ、何年か前に、あの山、冬登山を解禁したんですよ、その影響でね」 母親は、僕の顔を見ながら、ただはい、はい、と相づちを打つのが精一杯だった。 「確かね、3人ですよ、3人、おたくのお子さんで3人しか助かってないんだ、あの山」 白衣の男は、恩を着せるといわんばかりに、事の重大さを母親に言い聞かせた。 僕はそれよりも、今までの不思議な体験が脳裏から離れない。 ミユキの顔、 僕は見たんだ。 男に引き上げてもらう瞬間、ミユキの顔が、 冷え切った真顔になっていくのを。 そして耳元で聞こえた、 ミユキが言った言葉。 雪は、 また、降りますから、 その時は・・・・
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加