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・・・さん・・・さん
僕は、誰かに名前を呼ばれて目を覚ました。
病院の個室にいた。
目を覚ました瞬間、母親が泣きじゃくり、
白衣を着た人間が何人かが、
僕の顔の周りを調べ始めた。
そうだ、全てを思い出した。僕は大学の山岳部で、仲間と雪山に登っていたんだ。
最後の記憶は、尾根を登っている途中で聞こえた地響き。
そうか、他のやつらは大丈夫だろうか。
僕は放心状態のまま、もう大丈夫とか、あと数週間は様子を見ようとか、そんな医者の話を聞いていた。
「いやあ、お母さん、これは奇跡としかいいようがないですよ、あそこの雪山は『人食い山』と呼ばれていますからね」
白衣を着た男が、僕の目を調べながら母親に話しかけていた。
「この病院にもね、数え切れないくらい遭難者が運ばれてきましたよ、何年か前に、あの山、冬登山を解禁したんですよ、その影響でね」
母親は、僕の顔を見ながら、ただはい、はい、と相づちを打つのが精一杯だった。
「確かね、3人ですよ、3人、おたくのお子さんで3人しか助かってないんだ、あの山」
白衣の男は、恩を着せるといわんばかりに、事の重大さを母親に言い聞かせた。
僕はそれよりも、今までの不思議な体験が脳裏から離れない。
ミユキの顔、
僕は見たんだ。
男に引き上げてもらう瞬間、ミユキの顔が、
冷え切った真顔になっていくのを。
そして耳元で聞こえた、
ミユキが言った言葉。
雪は、
また、降りますから、
その時は・・・・
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