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気がつけば、僕は真っ白な道をただ歩いていた。
先に何があるのか、思い当たらない。
見渡す限りの白い世界、
辺りの木々は雪に包まれ、
山の麓が道しるべのように続いていた。
空は、すべてをふり払ったかのように、どこまでも青色を広げていた。
足元の雪は空からの光を反射して、僕の顔をまぶしく照らしている。
ぼくは麓をただ歩いている。
一緒に歩いている女の子がいる。
ミユキだ。
小豆色の着物、漆黒のようなおかっぱ髪に、透き通るような白い肌。
ミユキは僕に優しく微笑みかけている。
・・・なぜ、名前を知っているのだろう、
ミユキとは知り合った記憶がない。
ミユキは僕よりも一歩前を歩いている。
僕は、彼女の後を歩いていることに気づいた。
足を踏み出すと、雪の感触が足の裏から伝わってくる。
雪は固くなく、粉の上を歩いているかのような感覚がある。
「やわらかいでしょ、雪、」
ミユキはか細い声で僕に尋ねる。
僕は小さくうなずいた。
照れていたわけではないが、馴れ馴れしくも出来ない。
「雪ってね、模様があるんだよ。模様が重なって重なって、白い世界が出来るんだよ」
ミユキは少しかがんで、右手で雪をすくってみせた。彼女の手のひらには粉雪が崩れていた。
まるで白い砂のように、雪は乾きながら崩れ落ちていった。
僕は、ある衝動に駆られた。
少し横に逸れて、振り向いてミユキを見た。
ミユキはジッとこっちを見ている。
わずかな笑顔にも見えたが、よく見ると笑顔ではなかった。
ただ、僕を見ている。
僕は彼女を見ながら後ろに倒れた。
視界から彼女は消え、一面の空が映った。
背中から首に掛けてやわらかい感触が生まれる。
まるで、布団に倒れこんでいるかのようだ。
雪は、僕をやさしく包んでくれる。
不思議と突き刺すような冷たさはない。
今、僕の体に感じているのは、
綿のような感触。
気がつくと、ミユキがすぐ傍で立っていた。
わずかな笑みをかけて、こちらを見ている。
僕はゆっくりと起き上がり、背中についた雪をふり払った。
ミユキはそんな僕をじっと見ている。
僕とミユキは再び歩き始めた。
しばらく麓を歩いた。段々と日が暮れてゆく。
橙色の光は、少しずつ山の陰に隠れていった。
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