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光を隠した山の尾根は、青みを帯びた陰を除々に広げていた。
僕は、尾根の上の方に、何か黒い影があるのに気がついた。
さらに近づくと、その影の輪郭ははっきりと確認できた。
・・・山小屋だ。そうか、
ミユキはあの山小屋に向かおうとしているのか。
あそこが、ミユキが住んでいる家なのか、
僕はミユキの顔を見た。
ミユキはずっと行く道先を見ている。
「・・・あれ」
僕は、山小屋を指しながら、ミユキに声を掛けた。
ミユキは足を止め、僕のほうを見た。
「あの、尾根の上のほう、小屋があるよ」
僕は小屋を指し、ミユキの視線を促した。
ミユキは僕の指を追い、
視線は小屋の高さで止まった。
表情は変わらない。
ミユキは何も答えず、また歩き始めた。
「行かないの?」
僕はまた声をかけた。
ミユキは足を止めない。
日が暮れ始め、体は風の冷たさを確実に受け止めていた。
僕は、山小屋に向かって上り始めた。
雪に足をとられて思うように足が進まない。
僕は夢中に斜面を上った。
幸いにもそれほど急ではなく、上るにつれて雪の深さもなくなっていく。
僕は山小屋にたどり着いた。これといった特徴のない。
全体が黒く色付けられ、正面から見れば、扉が一つ、窓が二つある小屋だ。
周りには木々があるのだが、やはり雪が積もり、
真っ白な景色には目の前の小屋は
一段と目立つ存在であった。
しかし僕は、一つ不思議なことに気がついた。これだけ周りの木々や道が、雪で覆われているのに、
この小屋には少しも雪がかかっていない。
見える限りの屋根の上にも、まったく雪が見えない。
まるで、小屋が雪を嫌っているのか、
雪が小屋を嫌っているのか・・・
僕は、小屋の扉に手を掛けた。
扉を開けると、中から異様な熱気が外に飛び出してきた。
室内は闇に包まれている。
扉の外から覗いても何も見えない。
目が慣れてくると、机と椅子が見える。
それと、何か燃やしているかのような、パチパチという音。
熱気の元はこれだったのか。
何かを燃やしているということは、中に誰かいるのだろうか。
「すみません」
声をかけても反応がない。
扉でノックもした、人の気配がない。
僕は一歩、小屋の中に足を入れた。
その瞬間、椅子が、ギィっと、勝手に動き始めた。
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