雪夢

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そんな、さっきまで道はあったはずなのに・・・ 僕は叫びに近い声を上げ、雪を掴むように、必死になって、滑り落ちるのを止めた。 どれくらい急なのかわからない、 周りは雪で覆われている。 僕は上を見た。 わずかに小屋が見える。 思ったほど落ちてはいなかった。 とっくに日は暮れているはずなのに、小屋の先に見える空は、一面の白の世界に覆われていた。 下を見る。 下は一面の雪なのだろうか、こちらも白で埋め尽くされている。 「おい、」 僕は見上げた。 声は上から聞こえた。 男が小屋から覗いている。 「死にそうだな、小屋へ戻るか、」 男は真っ黒な長袖を下に伸ばし、僕に手を差し伸べた。 僕も右手を男に伸ばした。 僅かな動きで、傾斜の雪は僕を下へと引きずり込もうとしている。 僕の右手はなんとか男の手にかかったが、 男は一向に引き上げる気配がない。 「これじゃ無理だ、もう片方の手、ほれ」 男は、もう片方の左手を出せと促した。 僕はつられて雪を掴んでいる左手に顔を向けた。 僕は、思わず息を止めてしまった。 雪を掴んでいる左手、 そのすぐ下、ミユキがいた。 ミユキは口を開かず、僕を見つめていた。 眉間にしわをよせ、何か困っているような、違う、まるで、僕を欲しているような、 そんな眼差しで、僕を見つめている。 不思議と、顔についている雪は心地よさをおぼえる。 「おい、色男、下で女が待ってるぜ、どっちを選ぶ?」 選ぶ?選ぶ必要などない。 決まっているじゃないか、 ミユキは僕が必要なんだ。 ミユキは静かに僕を待っている。 静かに・・・ その時、僕は気がついたんだ。 ミユキが「静」で、 男が「動」であることを。 僕は左手を男に伸ばし、引き上げてもらった。 小屋に戻ると、またあの不快な熱気。 「よく、戻ったな、ここに戻ったのは、お前で三人目だ、」
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