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半ば開いた唇が
何を発することなく閉ざしたあの時、
私はあなたに、何を言えたでしょう。
あなたの追い詰められた状況を、
そうでもないとばかりにただ笑い、
あなたが慎重に選んだ少ない言葉にただ耳を傾け、
大丈夫だよと、また笑う。
私ごときが引き出すあなたの笑顔など
私に気を遣った弱々しく薄い微笑。
あなたの絞り出した細い笑い声に、
無邪気を装った笑い声を重ねながら、
私は私の無力を思い知る。
本当にありがとうなどと言われ、
また明日、と別れてから、今更に、
あなたの言葉を一つ一つ思い返し、それに対する私の反応一つ一つを、あれもこれも悔いています。
私は、あなたを喜ばせたい、というわけではなく、
あなたの幸せを私が作り上げるといった気概もない。
そう、私の小さすぎるこの両手で守るべきものは、あなたではない。
私が今、あなたの傍にいるのは、いくつかの偶然が重なってできた小さな奇跡でしかない。
そしてあなたにとっても、それは同じ。
今私と毎日を共にする現状など、今という熱量に押され流され手にしている、幻のようなものだ。
それでも私は心底、あなたが、あなたらしくあることに躊躇してほしくないと、願ってしまいます。
私は、あなたの周りを満たしている空気を温めたい。
あなたには、心安く笑顔でいてほしい。
そんな傲慢を胸に、あなたを思い、
また今日も、会いに行きます。
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