遺書

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彼女が入職して一ヶ月が過ぎた頃でしょうか。 「店長、ご相談が……」 私がバックヤードで商品の発注作業のためパソコンに向かっていた時のことでした。 一人の女性が神妙な面持ちで現れました。 それはうちの職場でも古株の山下さんです。 六十代でバツイチのフルタイムで働く彼女。 私がこの店に配属される前からこの店で働いていて、スタッフからの人望も厚く私もとても頼りにしている人です。 「相談?どうしました?」 私はパイプイスを広げ、彼女に勧めました。 それに座ると、彼女は声をひそめて話し始めたのです。 「最近、お金がなくなったり金目な物が盗まれたりしてるんです、女子更衣室で」 「え……」 「それで、」 そう言うと、彼女は一段と声をひそめます。 「設楽さんの出勤した日なんです、それが起こるのが」 え……。 山下さんが嘘をつくような人間でないことは今までの彼女との付き合いから明白です。 そういえば……。 最近、レジのお金が合わないことが増えたのです。 たいした金額ではありません。せいぜい、千円単位。 よくよく思い返してみると、確かにその時も設楽さんが出勤していた気がします。 「みんな、彼女が怪しいって思ってるんですけど、確証はなくて。ただ、……」 そうして、私はその日から設楽さんの行動を監視するようにしました。
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