第2章

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くつくつと土鍋から湯気が上がりはじめている。 「鴨鍋上がりました」 客席のテーブルの上に置かれた小さなコンロ。熱い蒸気を吹き上げる土鍋を、夏目がその上に載せた。 「もう鴨は煮えてますから、どうぞ。芹はさっと湯がくだけで美味しいですよ」 言いながらコンロの脇に山盛りの芹を置く。 「食べ終わったら呼んでくださいね。うどんかご飯か、お好みの方を入れますから」 蓋を取れば、わぁ美味しそうと女性の歓声が上がる。連れの男性が早速芹を鍋に入れ始めた。 鍋を一緒につつく男女は出来上がったカップルだ、と俗に言う。確かにひとつ鍋というのは親密さもひとしおだ。 いいなぁ……。 厨房に戻りながら、夏目がカップルを振り返った。 よし、今日の夜の賄いは鍋にしよう。白菜たっぷりのキムチ鍋とかでもいいな。母屋に戻ってから、秋月さんと炬燵でゆっくり……。 「夏目、カウンターにデザート」 「あ、はい!」 楽しい夢を秋月の声が断ち切って。夏目が慌てて厨房に入った。 「お待たせしました。こちらデザートです」 カウンターの女性客の前に、夏目が小鉢を置く。 その中に盛られてあるのは、一見羊羹。しかし上にはとろりと生クリームがかかってミントの葉が飾られている。 「あ、チョコの味がする」 一口齧った女性が声を上げた。 「新作なんですけど、どうですか?」 馴染みの客に夏目が訊ねた。美味しいと微笑まれて夏目の顔にも笑みが浮かぶ。 「練ったココアをね、寒天でよせたんですよ。コクを出すのに餡も少し入ってます」 「このデザート、単品では出さないんですか?」 もっと食べたいなぁと溜息をつかれて。人差し指を唇に当てた夏目が、もう一切れを小鉢に滑り込ませた。
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