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「夏目?どう―――」
「来ないで!」
戻ってこない夏目に、秋月が玄関から顔を出した。暗がりに立つ男に気づいた瞳が、はっと見開く。朽葉が薄い笑いを浮かべた。
「あの時は残念でしたね……邪魔が入らなければ、お互いにもっと楽しめたのに」
「何を……」
さっと目元を染めた秋月が、それでもきつい視線を返す。
内ポケットに入れていた朽葉の手が再び現われた時、そこにはナイフが握られていた。パチンと開いた刃が、街灯の光を弾く。
夏目の顔が強張った。
「……そんなことをして、どうなる?」
どうも、と肩を竦めた朽葉が暗い笑いを零した。
「どっちにしろ、私はもう終わりだ」
乾いた声が夜の中に消える。―――次の瞬間、朽葉が襲いかかってきた。
「秋月さんっ!警察を!」
飛び退ってナイフの切っ先をかわした夏目が叫ぶ。頷いて身を翻そうとした秋月の視界で、夏目が雪に足を滑らせた。そこをめがけてナイフが閃く。
「―――!」
肩から突っ込んできた秋月に体当たりされて、朽葉がたたらを踏む。凍った地面にどちらも踏ん張りが利かず、二人縺れて倒れこんだ。
「秋月さんッ!」
体勢を立て直すのは、朽葉の方が早かった。
振りかざした刃がきらめく。
世界がストップモーションになったように思えた。
全てがモノクロ―――ただ迸った鮮血だけが、紅。
「なつめッ!」
秋月と朽葉の間に飛び込んできた夏目が、右手でその刃を掴んでいた。
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