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私の復帰祝いでもあるお駄賃で私は買い物や贅沢をしまくってみた。
団子が500本も買えてしまう。
買っても食べられないから買うつもりもない。
柚葉姐さんにねだるつもりだった化粧道具や化粧水を買っても、まだ残っている。
草履を新しいものにしてもまだまだ。
5両をすぐに使いきるのは難しい。
大金だ。
三浦屋に自分の部屋を持てるくらいのお金。
私は柚葉姐さんの部屋で久しぶりに一緒に三味線を弾く。
三味線のバチを新しくするのもいいかもしれない。
なんて考えていられたのは最初だけで、柚葉姐さんの三味線の音に合わせるのにいっぱいいっぱいになる。
ゆったりとしたものならいいのに、速い動き。
弦を押さえる指も次々動く。
徐々に遅れて音を追いかけることになってから終わる。
柚葉姐さんも負けん気強いのだと思う。
私に追い付かせてくれない。
ここはこうしてとさっきの復習をゆっくり弾いてみる。
「ねぇ、鈴音。九郎助さんはどこに住んでるの?またきてとお手紙出そうと思うのだけど」
柚葉姐さんが言って、最初は誰のことかわからなかった。
九郎助稲荷の黒のこと。
柚葉姐さんに九郎助と名乗ったらしい。
黒助かもしれない。
黒なら九郎助稲荷にいるとは言えない。
「わっちも知りんせん」
「だよね。会いたいなぁ。毎日会いたい。この間、吉里様がいらしていたときから会えてない」
と、上客放って金にならない黒と会っていたと聞かされて、私はとても複雑。
「黒…助さんと何しておりんした?」
その私の質問に柚葉姐さんは口を閉じて。
まさかと思ってしまう。
それはどうなんだろう。
黒に惚れてもどうしようもない。
「黒助さんはやめたほうがいいと思いんす」
「わかってるよ。でも九郎助さんが…いい」
「柚葉姐さんには若旦那様がいらっしゃいんす」
「吉里様はただのお客だってば」
「だったらわっちが揚げられたら、若旦那様をいただきんす」
「それはだめ。吉里様がいるから太夫でいられているようなものだから。いくら鈴音でも譲れないの。吉里様がわっちから離れようとしたときには、引き戻す。鈴音を遊女に揚げるときだけしか渡さない」
柚葉姐さんなのに、なんだかすごい強欲。
若旦那様のお金がどれくらいのものかはわかっているみたいだ。
それを足蹴にして黒に会っていたのは余裕ということなのだろう。
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