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美寿々姐さんにやられたくなかっただけ。
それを言うに言えなくて、逃げることはできたけど、非常にまずいことになってしまったようにも思う。
藤弥さんはどうせ口だけだし、私に手を出すとは思えない。
一度はやらないと。
水揚げのときに大きな失敗をしてしまいたくない。
誰に相手を頼むのか。
それを考えて、もう発狂しそうになる。
素直にやられてしまえばよかった。
あとになって悔やんで、誰にも相談できる話でもなくて、私の悩みが増える。
素直に藤弥さんにしてもらうべき。
なんて思いながら、そこで格子の中の掃除をしている藤弥さんの背中を見る。
…やっぱりいや。
美寿々姐さんに睨まれていたくもない。
遣り手に嫌われたら大変なことになる。
伊之助が相手をしてもらいたがっていたし、伊之助でもいいんじゃないだろうか。
…無理。
ちょっとは慣れている人じゃないと。
手解きは若旦那様がしてくれることになっている。
私は一度もしたことがない。
幾さんならいいんじゃないだろうか。
…なにか藤弥さんに頼む以上に恥ずかしい。
もう楼主しか無理ってしてくれていたほうがよかった気がする。
私は大きく溜め息をつく。
「なんでぃ、その溜め息はよ。八杉に言われはしたが、そんな報告、適当にしてやらぁ。親父の女好きがつくった習わしだろ。ぶっ壊してもかまわねぇことだ。おまえのぼぼの具合はよく吸い付いてよかったぜ?」
もうやったことにして藤弥さんは話すけど。
何が吸い付くというのか。
こんな人だし。
やってなくてもやったことにされるんだし。
藤弥さんでもいいけど。
思いきれないのは、あの女のせいだ。
あの女はまだ藤弥さんの嫁ではない。
構わないはずなのに、私の中に嫌なしこりをつくる。
そのしこりを取り除いてしまいたい。
あの女がいなくなればいいのだけど、番頭をとめてくれるありがたい人でもある。
「まぁ客に出す前に少しの手解きは必要なのかもしんねぇが。おまえには必要ねぇだろ」
藤弥さんも何度言っても信じない。
「やってはおりんせんっ!」
「生娘くささは柚葉のほうがあるくらいだ。ったくよ、どこの客とやったんだか」
信じない。
あまりに信じないから、後ろからその背中を叩いてやった。
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