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「それより鈴音」
それが今の私の一大事というのに。
振り返った藤弥さんを不機嫌に見る。
「そう睨むな。それより俺には俺の悩みっつぅもんがあるんだよ」
「楼主にだったらなったらいいではありんせんか」
藤弥さんが悩むところはそこしかないだろうと言ってやると、今度は藤弥さんが溜め息をつく。
「それしか方法はねぇのか?敏三を楼主にしたら潰れるってまわりは言ってるけど、俺が楼主になったところで潰れねぇとも言い切れねぇんだぜ?」
「藤弥さんがそんなだから番頭をのさばらしているのでありんす。正妻の子だからかわかりんせんが、若い衆がついていけない楼主に何を望めるというのでござんしょうか。遊女も番頭に取り入れば甘くしてもらえるという不平等。番頭に気に入られなければならないと考えるよりも、客を掴むほうを考えるべきではありんせんか?わっちのような新造でもここで長く暮らしていれば、そういうことも思いんす。今の番頭じゃなければと言いなさるなら、他の楼主に相応しい人を連れてきなさんし。藤弥さんがやらなければ宛はないとまわりは思っているのでありんすから」
藤弥さんに説教するように言ってやった。
いやだいやだと言っていても、藤弥さんの帰る場所はここで。
存続を願うなら、自分がやるしかない位置にいる。
それはわかっているはず。
「…むぅ。幾ならどうでい?」
「幾さんは縁の下の力持ちでありんす。頼りにはなっても血の繋がりのないオヤジ様が認めるかはわかりんせん。
……腹をくくりなんし。楼主となっても鳥籠の中の鳥になるわけではありんせん。責任をもってやろうとすれば、そうなることもありんしょう。けれど、幾さんというすぐそばに任せていられる人がいるのなら、少しばかりは外にも出ていられるはずでありんす。すべてを背負わなくても大丈夫でありんす」
ここに月葉姐さんもいれば、更によかったのだけど。
月葉姐さんが遣り手となって客と交渉。
幾さんが番頭となって店を回す。
この配置は理想だった。
遣り手の姐さんはあずま野姐さんと八杉姐さんというベテランがいるから、いいということにするしかない。
「…まぁ、うん…。親父を安心させるためには必要だしな」
「はきっと言いなんし。男らしくない」
「なんで俺がおまえに説教されているみたいに言われなきゃなんねぇんだよ」
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