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「幾さんか遣り手の姐さんくらいしか言う人もいないでありんしょう?幾さんにも何度も言われていそうなことをわっちがもう一度言っただけでありんす」
はっきりと言うと図星のようで、藤弥さんは不満そうながらも言い返すこともなかった。
「俺が楼主になったら…、くそ生意気なおまえを働かせまくるぜ?」
藤弥さんが楼主にならなくても、私はもうすぐ見世に出る。
最初は若旦那様が決まっているけど。
そのあとも何人かすでに決まっている。
働かないでいられるほうを出してくれるわけでもない。
番頭が楼主になるよりはいいのかもしれないけど。
私と藤弥さんは別に愛し合ってもいない。
嫁に欲しいと望まれたことなんてない。
勝手に…あの女を嫁にとればいい。
なんだか悔しい。
なにが悔しいのかもわからない。
嫁に欲しいと望まれるでもなく、遊女として働かされることが悔しいのかもしれない。
たぶんそうなんだけど。
私は遊女としてここに買われた。
藤弥さんに。
買ってもらった。
「その前にわっちを抱いてくんなまし」
働くにしてもそれは必要。
相手は結局藤弥さんしか浮かばない。
「……おい。そういうこと言うんじゃねぇ、このガキが。なんで俺が…」
その藤弥さんの反応には覚えがある。
「またわっちを女と意識しているのでありんすか?」
聞いたら、顔面を掴まれた。
「うるせぇ。おまえが臆面もなく言うからだろ。抱いてやるから大引け過ぎたら布団部屋にこい」
抱いてやるって言った。
この口先だけ男を信じていいものなのか。
……信じよう。
私の初めてはあなたが奪ってしまえばいい。
欲しいと言っていた。
私もそれがよかった。
口先だけに私がさせなければいい。
一度だけなら抱かせることもできるかもしれない。
私は藤弥さんの手を掴んで、そこに唇を当てて、若旦那様の真似をするように藤弥さんを上目遣いで見る。
「約束を破ったらどうしてやるか考えておきんす」
藤弥さんは私から慌てて目を逸らしてくれる。
意識はしてくれている。
一度だけなら可能なはずだ。
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