反撃

17/20
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/260ページ
大引けは暁八つ。 丑の刻でみんなが眠る頃。 草木も眠る丑三つ時というやつ。 引け四つといわれる暁九つで見世の大戸は下ろされるのだけど、若い衆がそこで仕事終わりになることもない。 後片付けをしなきゃいけない。 後片付けをする人と後朝に朝帰りの客を送り出す人とわかれて、朝帰りの客を送り出す人は眠るけど。 このあたりは交替でやっているらしい。 じゃないと若い衆が遊女以上の睡眠不足になる。 私はいつものように朝四つ頃に起きた。 暁九つじゃもう眠い。 それでも藤弥さんとの約束を考えると、どこか落ち着かなくて眠れない。 暁八つに2階廻りの若い衆もいなくなって、誰にも見つからないように、こそこそっと布団部屋にいった。 戸を開けると、藤弥さんはもうちゃんときていたけど、布団に寄りかかって眠っていた。 戸を閉めて、藤弥さんに近づく。 冬も近づいて少し冷える。 寒そうに身を震わせて、それでもまだ眠る藤弥さんを見て、そこにいくらでもある布団をおろす。 少し湿気があるけど、ないよりはましだ。 布団を肩に乗せて、座って眠る藤弥さんの膝の上に乗る。 くっついて温めていると、今度は私が眠くなってくる。 藤弥さんの肩に頭を置いて目を閉じていると、藤弥さんの体がびくりと揺れて。 「…ね、眠っちまってた…?鈴音、おい」 起きて、私に声をかけてくる。 このままここで眠りたい。 抱かれるよりもそれがいい。 「寝よう?」 「おまえは俺をからかうんじゃねぇ。抱けって言ったのはおまえだろ」 言った。 目を開けて、肩から頭を起こして藤弥さんの顔をすぐそこに見る。 「抱く気もないくせに。眠っていたくせに」 「抱く気はある。……やるぞ?嫌がってもやめねぇからな?」 「いっつも口だけ。一人でどこかにいって、わっちを置いていってずっと帰ってこなかった。 ……初めては藤弥さんがよかった。藤弥さんに初めて体をさわられたときから。抱かれたかった。藤弥さんはわかってない。わっちが藤弥さんに抱いた心」 淡いものだけれど。 いいなと思う程度だけれど。 私には特別なものだった。 だけど藤弥さんは楼主になって。 私は遊女になる。 年季が明ける間近の年ならいいけど、私はこれから多くの客をとる。 そこから逃げることはできない。
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!