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年が明けると、私は17。
若旦那様からは豪華な布団と夜着が届いた。
花衣にも店のお得意様のご隠居から届いた。
ご隠居。
つまりおじいさんが花衣の最初の客になる。
若旦那様が私を狙ってくれていたから、私には若旦那様なのだけど、本当ならおじいさんの相手をしなければならないところだった。
花衣が先に水揚げされて。
次に私が。
私は若旦那様からいただいた夜着で、髷も花魁として豪華に結われて若旦那様の待つ部屋に案内される。
私を連れていくのは藤弥さんだ。
他の人に任せてしまえばいいのに。
この男は私の気も手管として受け取らず、ひどいことをしてくれるものだ。
部屋の前につくと、行灯を置いて、藤弥さんが中に声をかけて開く。
私も襖の前に座って、その手順を待つ。
「ここで逃げ出さねぇのか?」
藤弥さんは襖を開けずに小声で問いかけてくる。
「番頭が何を言っているのでありんすか。そんなにわっちに折檻をしたいのでありんすか」
「……おまえの根性は見上げたもんだ」
「もっと誉めて」
「すず…」
藤弥さんは私を見る。
「その名は捨てんした。わっちの名は夕月と申しんす。二度とその名でわっちを呼ばないでくださんし」
私は視線だけを藤弥さんに向けて、強く言ってみせる。
「……すまねぇ」
なぜそこでその言葉が出るのか。
何を謝るというのか。
藤弥さんは私に頭を下げると背を向けて、その襖を開けた。
衝立があって、すぐには中を見えないようにしてある。
その向こうに若旦那様はいるのだろう。
藤弥さんはそこで挨拶を済ませて、私だけが中に入る。
衝立の向こうに顔を覗かせると、若旦那様が優しい笑顔で迎えてくれた。
「綺麗だ、夕月。…しかし、名前を次々かえられるのもなかなか慣れるもんじゃねぇな」
「姐さんがつけてくれないのでわっちが自分でつけんした。月葉姐さんと柚葉姐さんにあやかった名でありんす。
…吉里様、よろしく頼みんす」
私は綺麗にお辞儀をしてみせる。
「上方言葉でよろしく」
むぅ。
こだわるなぁ、ほんと。
「よろしゅうお頼申します」
私が言い直すと、若旦那様はうれしそうに笑ってくださる。
若旦那様だけを相手にすればいいのならいくらでも相手にするのだけど。
そういうわけにもいかない。
私は連日、男と寝る。
今のところの決まり文句は「あなたが初めての男」。
どの男に抱かれても、瞼の裏に思い出すのは藤弥さんの腕の中。
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