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生まれは山城の農村。
貧しい村で、都に出稼ぎにいく人も多かった。
私の家は貧しくても、弟たちの面倒を私がみて、両親が畑仕事をして、なんとか暮らしていた。
けれど、私が10才になった頃、お父さんが病に倒れて。
無理をして一人で働いていたお母さんも倒れて。
私が弟を背中に背負って見よう見まねで畑を耕したりもしていたけど、お父さんが亡くなって借金があることを知った。
お母さんの病気を治す薬を買いたいのに、医者も呼べない。
それどころか毎日、食べるのも大変で、食べられないのが普通なくらいで。
畑も借金の返済のためにとお母さんが売ってしまって、どんどんなくなっていく。
私一人じゃ耕すことも満足にできなかったから、売るのも仕方なかったのだけど。
このまま飢えて死ぬかもしれないというのは、いつもいつも思っていた。
ある日、村に女衒(ぜげん)という人がきているというのを聞いた。
「ぜげんって何する人なん?」
「女を郭に売るねん。すず、おまえは隠れとき」
ご近所のお兄ちゃん、利平さんが教えてくれた。
利平さんは15才。
畑を耕すのをたまに手伝ってくれたり、食べ物をお裾分けしてくれる、いいお兄ちゃんだ。
いろんな知識も教えてもらえてる。
「なんで?くるわって畑仕事より大変なん?うち、買ってもらえそう?買ってもらえたら、お母さんの薬、買えるんちゃうん?」
女を買うってことは、自分が売り物になるってこと。
それだけは理解できた。
でも私にはまだまだ知識は足りなかった。
「あんなぁ…。すず、ほんまにあかんからな。すずがおらんなったら、すずの母ちゃんや弟、誰が面倒みるねん」
利平さんは私が自分で買ってもらおうと考えていることを見抜いたように言ってくれる。
それもそうなんだけど…。
私がいてももう飢えて死にそう。
利平さんのお裾分けを頼りに生きているようなもの。
お母さんも薬がなければ、お父さんみたいに死んじゃう。
まったく何も考えていなかったわけじゃない。
私は私で今を考えていた。
売られたくない。
そんな気持ちだったわけじゃない。
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