トンボの目

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トンボの目

 なぁ、どうしてトンボがあんな目をしてるか知ってるか?  あの目はな、お盆にあの世から戻って来て、こっちで過ごす内に帰りたくなくなった霊魂が、ずっとそこいらに居座り続けようとしていなかどうか、見張ってるんだよ。  あちこちたくさん見える目で、こっそり居残ろうとする霊魂を見つけ出す。そうしたら、ぎゅっと曲がった強い足で捕まえて、あの世に連れて帰るんだ。  トンボの目は総ての霊魂を見ている。  どんなにうまく隠れても、必ず見つかってあの世に連れて帰られる。  どうやっても…逃げられないんだよ。    子供の頃、じいちゃんが聞かせてくれた不思議な話。  聞いた当時は何のことだか判らなかったし、意味が判るようになってからは、そんなバカなと思っていた。  でも、いつ頃からか、それが全部真実だと信じられるようになった…というか、あの頃は見えなかったものが見えるようになってしまった以上、信じざるを得ない。  小さなトンボに捕まえられ、もがげともがけど逃げられず、現世に留まろうとした霊が天へ引っ張って行かれる。  よくよく見れば、あっちにもこっちにも、同じ状態の霊だらけ。  せっかく戻って来れたのだから、帰りたくない気持ちは判るけど、トンボの目はごまかせない。  お盆過ぎの、まだ暑いのにどこか高く見えるようになった空の下を、たくさんのトンボが飛び回る。  その時期が過ぎたら、もう、周囲一帯に霊魂は見当たらなくなる。  指名を持って生まれてきた、小さな体の運び屋。あの目からは、どんな霊魂も逃げられない。 トンボの目…完
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