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〔1〕
正午少し前の学校は、まさに地獄。
長い梅雨に我慢を強いられた太陽が、早朝から容赦なく大地を焼いている。
汗は滝となって背を胸を脇を流れ落ち、制服の下にTシャツを着ていなければ下着のラインが丸わかりだ。
校則で決められた二つ結びの髪が、肩に貼り付く。
正門を出たらスカートのウエストを、いつもより五センチ多く巻いてやる。マイクロミニ上等!
しかし今の桜井アカリにとって問題は、この灼熱地獄ではなかった。
「この夏休みが、高校受験の決戦地獄! 渋谷も原宿も、海もプールも祭りも花火大会も無いと思え!」
校舎から出るなり、白く乾ききったグラウンドに向かって吠えた。
当然、誰もいないことを確認してからだが。
「あっははは、アカリってば、誰に向かって叫んでるんだよ」
三年生用昇降口の陰から、男子と間違えそうなくらい低い声がした。
ショートカットですらっと背が高いが、紛れもない女の子。
親友の海老塚ユウコだ。
「長く待たせてゴメ~ン、ユウコ。満留はやっぱ、小言婆さんでしたっ!」
「んなの、解りきってるから心配するな。覚悟してたし」
両手を合わせて拝むアカリの頭を、ユウコはぽんっと叩いた。
ユウコは土足禁止の場所で、既に通学靴に履き替えている。
アカリより一回り大きなローファーは、たぶん男物だ。中学三年生で一六八センチも身長があるから、靴もビックサイズ。
ただし胸もビックサイズだから、身長一五四センチのチビで細身で貧弱なプロポーションのアカリにとって羨ましいかぎりである。
アカリがユウコに自慢できるのは、艶やかでサラサラの髪くらいだ。
湿度の高い灰色かかった水色の空には、そよ風さえない。
じとじと、べたべた、まとわりつく汗をタオルで拭いながら、二人は校舎の日陰を選んで正門に向かった。
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