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「いらっしゃぁ~い」
≪美咲≫と絞り染めされた暖簾をくぐり抜け、扉を開けて中に入ると和服姿の女将さんがニコリと笑ってこちらを振り向いた。
「あれ?青葉クン久しぶりね?」
課長の顔を見てそう呼ぶ女将さん。
青葉クン?だれ?
キョロキョロとわたし達の他にもだれかお客でも来たのかと探す素振りを見せれば
「お前は上司の名前ぐらい覚えておけよ!」
再び繋がれていた手をほどき、その手で頭を小突かれた。
「青葉クン?」
課長の顔を指さして確認すれば
「そうだ」
不機嫌さマックスの課長が頷いた。
クスクス笑ってこちらに近づいて来た女将さんが
「いらっしゃいませ。青葉クンの会社の方ですか?」
聞きながらあたし達が着ていたコートを受け取ってくれる。
「はい。荒木戸と申します」
背の低いわたしよりも、少しだけ高い目線の女将さんに答えると
「この店の女将の美咲です。この子は田舎が一緒でご近所に住んでいたのよ」
どうぞ、と促されてカウンターに腰掛けた。
週半ばというのに、結構なお客さんでそこしか空いていなかったから。
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